盛岡心理カウンセリング・ハミングバード

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04月

過去を振り返らず、前に進む?

反復性のうつを患っている人から聞いた話です。この人は精神科で数年前から薬物治療を受けているのですが、あるとき、自分の原因不明の繰り返されるうつは、幼少期の生い立ちに関係があるのではないかと思い当たりました。それで、主治医の先生に、カウンセリングを受けたいとお願いしてみたそうです。すると、その先生は、過去を振り返らずに前に進まなければならない、せっかく今安定しているのに、過去を思い出して不安定になってはいけないからと、反対したそうです。

この先生の考えが間違っているとはいいませんが、例え今は安定していても、原因になっている心の傷を何とかしない限り、この人はこの先もまた、繰り返しうつに襲われることになるでしょう。確固たるトリガー(引き金になるできごと)がないのに、原因不明のうつや不安症状が繰り返し起こる場合、過去から現在に至るまで抑制している感情的痛みが関連していることがよくあります。その痛みは、放っておいたら消えていくたぐいのものではなく、それを抗不安薬や抗うつ剤で抑制しても、根本的なところが取り除かれていないので、対症療法的な、いわば痛み止めのような一時的効果しか得られません。むしろ、痛みを感じないように紛らわせれば紛らさせるほど、その痛みを発している根本的なものの処置が遅れるので、痛みはだんだん悪化して、手をつけるのが難しくなるばかりです。

この感情的な傷は、いわば、過去ではなく、今、現在、自分に内在するものです。起った出来事は過去にあるかもしれませんが、今も強い感情を伴って思い出されるならば、現在に強い影響を及ぼしているという意味で、過去になっていません。その傷をちゃんと見て処置するという作業は、その傷を治して本当に過去のものにしてしまうために、実は必要なプロセスなのです。「前に進むためにこそ、過去を振り返らなければならない」こともあるということです。

潜在意識に閉じ込めていた否定的感情(本当は感情に否定的も肯定的もないのですが、ここでは便宜上否定的という言葉を使っています)は、顕在意識に浮上する時、通常、痛みを伴います。それは、その感情が強ければ強いほど、また、閉じ込めている期間が長ければ長いほど、強い痛みとなって感じられるはずです。でも、おう吐や下痢、発熱などの浄化プロセスがたいていそうであるように、毒が外に出るときは、苦しさや痛みを感じるもの。苦しみの原因を中に閉じ込めておくよりは、一時的に痛くても外に出して解消してしまう方が、後でずっと楽になるものです。

痛いのが嫌だから、気を紛らわせ続けるか、思い切って痛みを向き合って、根本的に取り除くか、どちらを選ぶかはその人次第です。でも、今は辛くても、痛みを引き伸ばさないほうが、長い目で見たらいいのではないかと私は思っています。

 

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