盛岡心理カウンセリング・ハミングバード

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09月

考えすぎないこと

先日、アクセプタンスアンドコミットメントセラピー(ACT=アクト)という療法に関するセミナーを受けました。アメリカのセミナーで、オンラインで受けたのですが、色々と役立つことが学べてよかったと思います。

その中で、興味深いと思った言葉があります。

「思考する頭(マインド)は、あなたを幸せにするためにあるのではない。頭は、あなたを危険から守るためにある。」

頭は、思考し、できごとをカテゴリー分けしてレッテルを貼り、過去を分析したデータに基づき未来を予期し、他と比較して判断や評価し、どうやったらいいか方法を見つけ出して、あなたを危険から守ろうとします。

けれども、思考はあくまでも思考にすぎません。その人が頭の中で考えたことにすぎない。「思考を現実と捉えてしまうと、絶え間なく解釈する思考に翻弄され、逃れられなくなってしまいます。」というのです。

例えば、「私は何をやってもダメな人間だ」という思考を持っているとします。それは一つの考えに過ぎず、現実ではありません。

そもそも、何をやってもダメな人間というのは、この世に存在しません。昔、やることなすことうまくいかない人が主人公で、色々なトラブルにあうコメディー映画を見たことがありますが、そんな人がもし現実にいたら、後世に伝えらるくらい有名になって、ドキュメンタリー映画が一本できるでしょう。それくらいありえないということ。

本当は、うまくいっていることもたくさんあるけれど、それは頭の中でスルーして、うまくいかないことばかりを頭が捉えている。偏った見方の癖から自分はダメな人間だと結論付けている。その作業を思考が行っているにすぎません。

よく考えさえすればうまくいくというのは、幻想です。考えすぎると思考の迷路に入り込んで、現実が見えなくなるものです。また、思考が多い人のほうが不安が強く、心身共に疲れやすくなります。

ちなみに、冒頭で述べたACTという療法では、いいか悪いか、正しいか間違っているかを目標にするのではなく、自分が幸せかどうかを目標にしています。

いいか悪いか、正しいか間違ってるかは、人によって違うし、同じ人であっても状況や時期によって変わってくる。要するに、あてにならないものです。正誤・善悪は、思考の判断によるもので、間違いうるもの、誤りやすいものです。

でも、幸せかどうか、というのは、(思考が得意とする)理屈ではなく、感覚的なもの。これは間違わないのです。どんなにこの人といたら幸せになれるよ、この人は賢いし、お金持ちだし、社会的地位も高いし(これらは思考がいい悪いで判断しがちな外的条件です)といわれても、一緒にいて自分が幸せだと感じられなかったら、それがその人にとって、間違いない答えです。感覚は、本来、自分をだまして違う風に感じさせることはできないのです。感覚は、自分の中の叡智と直接つながっているものだからです。

ですから、考えすぎないこと、思考に偏りすぎないことは、とても大切です。もちろん、何も考えないで生きることはできないし、考えなしに感情の赴くまま、衝動的に生きたほうがいいということではありません。ただ、現代人はどちらかというと思考に偏りすぎている人が多く、それで不幸せになっている人が多い印象があります。

ACTでは、ディフュージョン といって、あれこれ考えて、思考の迷路にはまっているとき、思考から抜けだす方法を、いろいろと提案してます。(「フュージョン=融合」は、思考が頭にくっついて一体化している状態。ディフュージョンとは、くっついている思考をはがして、自分から分離させるという意味です。)

例えば、戦場で戦いが起こっている、或いは、サッカー場で、敵と味方が入り乱れて、右往左往して戦っているとします。その中にいたら、巻き込まれてハラハラドキドキし、心が休まらないでしょう。けれども、もし、山の上から戦場を見下ろす、或いは、50m上からサッカー場を見下ろすとします。そうすると、今、自分は、ああでもないこうでもないと、頭の中でグルグル考えていたな、と思考していた頭の状態自体を、 一歩離れて客観的に見ることになります。その状態になったとたん、戦いの場で翻弄されていたときより、もっと楽で、平和な心の状態にシフトします。

現実で起こっている問題自体(=現状)は変わっていなくても、いったん思考を離れるだけで、不安が減り、より穏やかな心の状態でいることが可能になるということです。今すぐ解決できない問題は、解決しようと考えあぐねるより、未解決のまま、こうやっていったん離れたほうが建設的です。

「変えられないことは、変えようとしないで、ありのまま潔くすっぱり受け入れる」というのは、ACTにおいても、弁証法的行動療法(DBT)など、他の心理療法においても重視している、心の健康維持のためのポイントです。

「未解決でも、今日のところはそのままでいい」と、いい意味であきらめると、頭はそれを解決すべき問題と見なして格闘するのをやめるので、心には平和が訪れます。こうすれば、例え今、1000万円の借金があったとしても、今、この瞬間、心安らかに、おいしくお茶を飲むことが可能になります。

生きていると、今すぐ解決できない問題にたくさん出会います。考えて解決すべきか、執着しないで今は手放し、考えるのをやめるときかの識別は重要です。

人の思考の多くは無駄だといわれています。多くの人にとって、思考にとらわれるのをやめ、考えることをもっと減らしたほうが、メリットが大きいように思います。