盛岡心理カウンセリング・ハミングバード

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29日

本当の自分に還る

ゲシュタルト療法を編み出したドイツの精神科医、フリッツ・パールズは、精神疾患に対してホリスティックな見解を示した人です。

パールズは、人は本来、全き存在であり、心の不調とは、本来、統合されて1つにまとまっているべきものが、部分的に分離したため、機能不全に陥った状態であると考えました。

自然には恒常性(ホメオスタシス)があり、変化が起こってバランスが崩れたときに、調和を回復して、再び元あるべき状態に戻ろうとする働きが起こります。人間の精神にも、同様に、分離して離れてしまった部分を再統合して、本来あるべき完全で調和のとれた状態に戻ろうとする働きがあると、パールズは考えました。

私は、大学院でゲシュタルト療法を習ったときは、これがどういうことか、今一つ、ピンときませんでした。

けれども、実際に現場に出て、臨床経験を積めば積むほど、パールズの深い洞察が、心という目に見えないものを説明するにあたり、非常に的を得ていることを実感するようになりました。

人は、ごく幼いころは、本来あるべき、全き存在に近い状態なのだと思います。

小さい子供は、割合、心のままに生きています。感じたことを素直にありのまま表現して、悲しかったら泣き、うれしかったら笑い、思ったことを口に出します。過去をいつまでも思い煩うことはなく、未来のことを不安に感じることもなく、現在に生きているので、今、目の前にあることに純粋な興味を抱き、没頭し、楽しむことができます。

子供は、起こった変化に自然に反応するがゆえ、すぐにバランスを回復して、本来あるべき状態に戻ることができます。なので、感情的な淀みというのものを持ちにくく、例えば、怒りは感じても、恨みを抱くことはあまりありません。

けれども、人は、成長するにつれ、社会や周囲の環境に適応するため、自分を偽ったり、否定したりすることをおぼえてしまいます。本来の純粋な欲求ではなく、人や社会の期待に応えるため、あるいは周りから攻撃されて傷つかないように、行動や思考や感情を制限するようになっていきます。

自分の身を守るため、周りに迎合するために、本当は言いたくないこと、したくないことを、言ったりしたりしてしまう。そして、自分の本当の思いはなかったことにして、自分から切り離してしまう。本当は辛いのに、辛くないふりをする。辛いと叫んでいる心の一部は、切り離してしまう。

それを繰り返すうちに、全き存在だった自分は、分断化され、機能不全に陥っていきます。

完全な自分としてではなく、自分の一部分を切り離して生きていると、100%で生きていない分、パワーダウンして気力が減少してしまいます。また、エネルギーがうまく全体に回っていないので、アンバランスになり、どこかにひずみが生まれます。

結果として、うつになったり、感情の起伏が激しくなって怒りを抑えられなくなったりする。本来自分に属している部分を分離しつづけるのは、実はとてもエネルギーを消耗する作業なので、心が疲れてくる。潜在的にはその状態はよくない、なんかしなければならないと知っているので、慢性的な不安にさいなまれる。こういったことが、起こってきます。

フリッツ・パールズは、本来の全き存在に戻ることを阻害している、自分の中の切り離された部分、表現されずに自分の中に取り残された感情のことを「unfinished business(未完成の仕事)」と呼びました。

そして、この部分にちゃんと気つき、満たしてあげれば、分離された自己の一部は再統合され、自分に還ってくる、それにより、本来あるべき完全な状態に近づくことができる、と考えました。

実際、私は、セッションの中で、ゲシュタルト療法を使うことが少なくないのですが、それによって分断されていたものが再統合された場合、その人は、やはり、おしなべて、力が戻ったと感じるようです。この場合の力とは、具体的には、気力とか活力、自信などの、自分の中のパワーのことです。

また、感情的な停滞がなくなり、感情エネルギーが循環するようになるという目に見えない変化は、マイナスの感情にとらわれなくなり、短期間で切り替えられるようになる、という感覚として、実感されるようです。

ゲシュタルト療法は、自分の本質をそのまま表現すること、自分自身とちゃんとつながって生きることの大切さを教えてくれています。そのためには、自分の中に、否定してしまっている部分、滞っている部分があれば、その存在をまず認め、それから、受け入れてあげること。そして、その部分が本当は何を欲しているか、耳を傾けてあげ、満たしてあげること。

これがちゃんとできれば、unfinished business(未完成の仕事)はfinished(完成)となり、奪われていたパワーを取り戻し、本来の完全な自分に還ることができる。そうなるほどに、人は、持っている潜在能力をより多く発揮して、より、生き生きと生きることができるのだと思います。

                                       (Chika)

 

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