セルフコンパッションという心理的な方法があります。
直訳すると、「自分に慈愛を向ける」。
自分のことを好きになれず、したがって大切に扱うことが難しく、毎日を生きづらく、困難なものにしている方が時々いらっしゃいます。自分に優しくする=甘やかす、または、利己的な行為だと勘違いしている方もいらっしゃいますね。
本当は正反対です。慈愛を向ける、優しくする対象に、自分を含めないと、ほかの人に対しても、慈愛を向けたり、優しくすることは不可能なのです。自分が苦しいのに無理をして人に尽くしたら、いずれ相手に我慢が伝わって、相手も苦しくなるでしょう。自分が穏やかで明るい気分でいたら、人に親切にするのは容易ですし、たとえ何もしなくても、ただいるだけで周囲にいる人も心地がよい気分になります。
ちなみに、私たちの左脳は、自分と他人を区別しますが、右脳は自他を区別をしません。左脳が麻痺して、右脳だけの感覚を経験した、脳科学者のジル・ボルト・テイラー博士によると、右脳マインドにおいては、自他の境界線がありません。存在するすべてはつながって影響しあい、世界を一緒に創造しているという認識になり、自分と世界が一体化するように感じられるそうです(「奇跡の脳」ジル・ボルト・テイラー著 竹内薫訳 新潮文庫)。そう考えると、自分に向けた辛辣な行為が、自分と関わりのある周りの人、ひいてはこの世界にネガティブな影響を及ぼし、自分に向けた優しさは、周囲にもいい影響を及ぼし、世界を優しく変えるための、小さくとも確実な一助になるということが、イメージしやすいのではないでしょうか。
さて、今回は、簡単だけどパワフルなセルフコンパッションの方法を、一つご紹介します。アメリカの精神科医、Jonah Paquette博士の、Putting Positive Psychology into Practiceというセミナーで習った方法です。
まず、今、ストレスに感じているものを、一つ、思い起こしてください。ストレスな状況を頭に思い描いて、どんな感覚がするか、感じてください。それができたら、自分に向けて、こう言ってください。
1.今は、苦しいときだ。
2.苦しみは、人生の一部だ。
3.どうか私が自分に優しくできますように。
この後、先ほど覚えた、自分の苦しみの感覚が、どう変化するか、感じてみてください。
この方法では、まず、自分が苦しいということを、見ないふりをしたりしないで、直視し、受け入れるということをします。感情は、否定したり変えたりするより、認めて受け入れることで、消えていくようにできているからです。
次に、苦しみは自分だけではない、すべての人が人生で味わうものであり、人類に共通のものだという認識を起こします。「つらいのは自分だけ」「ほかの人はみんな幸せそうなのに、なんで自分がこんな目に」という見方をすると、苦しみは強まりますが、自分だけじゃない、みんな仲間だ、という思いは、苦しみを和らげます。
最後に、つらい思いをしている自分に、自分が優しくできますように、という慈愛の祈りを向けます。つらいとき、誰かが親身になって、心から優しい言葉をかけてくれたとき、つらい気持ちが和らぐ経験をした人は多いと思います。このように、慈悲の心には、痛みを和らげる働きがあります。目には見えなくても、思いにはパワーあるということです。
セルフコンパッションの手法はほかにもあるので、機会があったら、またご紹介できればと思います。