共依存関係のしくみについては、いったんお休みして、気分を変えて、今回は境界線パーソナリティ障害(Borderline Personlaity Disorder)についてのお話です。
境界線パーソナリティ障害の人の特徴は、
- 感情の起伏が極端に激しい
- 非常に繊細で、ささいなことで極度に傷つく
- 見捨てられ不安がとても強く、なんとしてでも捨てられることを避けようとし、その結果、愛する人を傷つける
- 自己破壊的な行動に走る
- 衝動的で、自傷行為や自殺未遂を繰り返す
- 承認欲求が強い
- 自己のアイデンティティの観念があまりない
- 飽きやすく、いつも虚しさを感じている
- 不安定な恋愛関係を繰り返す
等。
有名人では、マリリン・モンローや太宰治が境界線パーソナリティ障害だったといわれています。
境界線パーソナリティ障害の人たちは、だいたい、子供時代、自分を認めてもらえない、とか、承認してもらえなかった過去があります。例えば、親に常に否定されつづけたとか、捨てられたとか、無視されたとか、そういう経験ですね。なので、承認してもらえないとか、見捨てられることに対して、過剰に感情的に反応し、なんとしてでもそれを避けようとするようです。
パーソナリティ障害を持つ人は、概して自覚症状が乏しいので、なかなか治療を受けにこないという点が一つ、さらに、セラピーを受けても、突然来なくなったりして、継続的治療がしにくいという点があり、治療が難しいとされています。
が、パーソナリティ障害の中でも、境界線パーソナリティの人は、とにかく精神的に辛いという自覚症状があり、また、自殺未遂を繰り返すなど、命にかかわる場合も多いので、効果のある治療法が求められていました。
そんな中で、比較的最近ですが、マーシャ・リネハン博士によって、弁証論的行動療法(Dialectical Behavioral Therapy、略してDBT)という、境界線パーソナリティをターゲットにした効果的な療法が開発されたことは、画期的でした。
このDBTという療法は、かなり内容が多岐にわたるので、使いこなせるようになるまでは、相当な専門的な訓練が必要だと思うのですが、私はラッキーなことに、インターン時代にこれを学ぶ機会に恵まれました。そして、その後勤めていたカウンセリング・エイジェンシーで、グループのファイシリテーターとして、現場で実践していました(DBTは、個人セッションより、グループ形態のほうが効果的とされています。)その結果、この療法が、境界線パーソナリティだけでなく、PTSDや、双極性障害など、重度の精神障害を持つ人たちにも、概してとても効果的であることを実感しました。多くのクライアントさんたちが、このグループに来ることを心のよりどころにし、目覚ましい症状の改善をみた人も、少なからずいらっしゃいました。
ところで、一つ興味深かったのが、このDBTという療法を開発したマーシャ・リネハン博士自身、境界線パーソナリティ障害だったということです。彼女は、それを2年前に公けにしました。自分が苦しんだ症状というのは、それにちゃんと向き合って乗り越えられたとき、どうやって対処すればいいか身を持ってわかるようになり、同じ症状を持った人を、共感力を持って助けられるようになります。この人は、見事に自分の痛みを昇華して、強みに変え、世界に貢献しているなあと、つくづく思います。
私がリネハン博士を知ったのは、まだ大学院時代、教育用のビデオの中ででしたが、リネハン博士は、自分の感情的なクライアントさんたちに、とてもシビアに接していたのが印象的でした。
「もう、私死ぬ」
と泣き叫ぶクライアントさんたちに、
「ああ、そう?」
みたいな、冷たいくらいきっぱりした対応だったのを覚えています。(これを読んでいるカウンセラーやセラピストの皆さんは、真似をしないでください。(;一_一)こういう対応が有効的にできるようになるまでは、熟練が必要ですから。)
このリネハン博士は、仏教に帰依したことでも知られており、DBTの中には、禅の思想から取り入れられたマインドフルネスという項目があります。
その結果、DBTは、西洋的な技術と東洋的な技術を融合させたセラピーになっています。