近年、アメリカの心理セラピストの間では、自尊心を高めるよりも、自己への慈しみをはぐくむほうが、心にとって健康的であるといわれるようになってきました。
そもそも、自己への慈しみと自尊心は、どう違うのでしょうか。
心理学博士であり、脳心理学者でもあるるウォーデン博士は、自尊心は下記の点で問題があるとしています。
・他者からの承認に重点が置かれている
・自分以外の価値観に合わせて生きる結果、満足感を損なう可能性がある。
・高めることが難しい
・非常に不安定で、最新の成功や失敗に応じて上下する。
・ナルシシストで自己中心的になる危険性がある。
・しばしば、人はこれを、優越感を持つことによって作り出そうとする。
・自尊心が高い人は、しばしば怒りや攻撃性も強い。
・見た目や競争心、人を卑下することにより、生みだされることがある。
自己への思いやりと自尊心は、双方とも自分に対する肯定的な気持ちを含んでいます。この2つの違いは、
・自尊心は、自分を「価値があり、好ましく、有能である」と評価することから生まれる。
・自己への思いやりは、自己評価を含まないで、かつ、自分を気づかい、自分とのつながりを持つという、肯定的な感情を伴う。
なので、自己への思いやりには、自尊心にみられる欠点を持たないと、ウォーデン博士は言います。
自尊心に対し、自己への思いやりは、下記のように特徴づけられています。
・ナルシシズムと結びついていない。
・エゴの脅威から守ってくれるので、不安感が少なくてすむ。
・過去の失敗に対し、より大きな責任感を持つことができる上、それを苦悩する度合いも少なくなる。
・安定性が高い
・より強いつながりをもたらす(他者と比較したり、怒ったりすることが減り、よりよい関係を築くことができるため。)
自尊心というのは、自分の行為や存在自体を、いいとか悪いとか評価することに関係します。いい・悪いの評価というのは相対的なものなので、どうしても人と比較して、劣等感や優越感を抱いたりしがちな上、自分の価値を見定めるにあたり、人の評価を気にしてしまうということも起こってきます。
そもそも、人間の価値というのは、人が判断して決めること自体、不可能であり、無意味です。人の評価を自分の価値基準にするのは、とても不自由だし、ばかばかしいことだと私は思います。
これに対し、自己への思いやりとは、いい・悪いという評価をせず、自分のすべてをまるごと受け入れて、自分に対して理解と慈しみを抱くということ。確かに、自尊心よりも自己への思いやりを持つほうが、心が満たされて、ずっと建設的に生きていけるでしょう。
そして、自分に思いやりを持つことができる人は、人に対しても楽に思いやりを持つことができるので、幸せな人間関係を築いていけるものだと思います。
(参考資料:Worden, T. (2014). The Neuroscience of Self & Self-Acceptance: Brain-Based Strategies for Adressing Entrenched Guilt & Shame, PESI Webcast Seminar)
(Chika)