盛岡心理カウンセリング・ハミングバード

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痛みと向き合って鬱を治す

痛みと向き合って鬱を治す

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アメリカでサイコセラピストをしていた頃のクライアントさんに、かれこれ20年ほど、重度のうつ病を患っている50代の女性がいました。仮にレベッカさんとします。

レベッカさんは、とてもユーモラスで、ちょっと男っぽい女性でしたが、幼いころに家族の知人の男性に繰り返し性的虐待を受けており、それがトラウマの一つになっていました。

レベッカさんの症状には、うつに加え、社会不安障害、マリファナ依存、2度の交通事故の後遺症からくる頭痛と、高次機能障害による記憶力の低下や、認知機能の低下がありました。

レベッカさんは、私が担当する以前から、もう何年もセラピーに通っており、精神科医から処方された向精神薬も飲み続けていましたが、症状に目立った変化はなく、現状維持がせいぜいのようでした。

彼女は、以前担当したセラピストと相性が悪くて、セラピストというものに不信感を抱いており、私が担当した当初、すぐには心を開いてくれませんでしたが、だんだんに気を許してくれるようになりました。とてもユーモラスな人だったので、よくセッション中も、冗談を言っては、笑いあうようになりました。

そうしてレベッカさんは、性的虐待のトラウマについては、ずいぶん話をしてくれるようになり、少しずつですが、症状も軽減してきたようでした。彼女の頭痛は、交通事故の後遺症からくる可能性もありましたが、おそらく、40年近く抱き続けてきた加害者への強い怒りがそれを誘発していたようで、もうとっくに亡くなってしまっていた加害者の男に対する怒りが解放されて和らぐにつれるにつれ、ひどい頭の痛みに悩まされることも少なくなってきました。

けれども、その時点では根本的な精神症状の回復には至らず、社会不安障害は相変わらずで、うつの症状も、まだよくなったり悪くなったりを繰り返していました。

そうして、1~2年ほどセラピーを続けた頃、レベッカさんは、

「まだ、あんたに話していないことがある。このことは今まで誰にも言っていない。」

と、初めて打ち明けてくれました。

「でも、まだ言えない。」

ああ、そうか、たぶん、これがうつが治らない原因だろうなと、その時思ったのですが、私はレベッカさんに無理に聞き出すことは一切せず、彼女が言いたくなった時、言ってもらえたらいいから、自分のペースを尊重するように、といいました。

「言いたいんだけど、口ではいえない。すごく悲しい話だから。でも、あんたに効いてもらいたい。だから、手紙に書いてくる。」

そうはいっても、レベッカさんは

「書こうと思ったけど、思い出すのも辛くて、やっぱり書けなかった。」

と、何週間も、手紙を書くのを伸ばし延ばしにしていました。

けれども、ある日、レベッカさんは、ついに自分で書いた手紙を持って、セッションにやってきました。

「文章を書くのは苦手で、綴りも間違いだらけだけど。」

と渡された手紙には、子供のころ、交通事故にあった自分を心配して看病する父親に嫉妬した母親が、レベッカさんにつめたく当たったこと、母親に愛されようと痛む体を引きずって頑張っても、無視され拒絶されたこと、ヒッチハイクをして、家出をしたことが、たどたどしい字でつづられていました。

私が手紙を読んでいる間、レベッカさんは、室内なのにサングラスをかけていました。彼女はセッションでは一度も泣いたことがなかったのですが、この手紙を書いてから、はじめて涙を流したのでした。

レベッカさんと母親との関係は、その当時から今まで、こじれたままで、それが彼女にとって、レイプされたことよりも辛い出来事でした。母親に対する愛情と憎しみの狭間で、レベッカさんは長い間葛藤に苦しんでいたのですが、その痛みが表出したことにより、劇的な変化が現れ、その後、彼女がすべての症状において急速な回復をみせるまでに、そう時間はかかりませんでした。

もちろん、ただ痛みが表出しただけでは、不十分なのですが、その後のセッションで、母親との関係についてフォーカスし、レベッカさんの気持ちを整理することができたので、彼女の母親に対する態度も変化し、結果として、母親との関係も無理のない形に変わっていきました。

そうするうちに、気づいたら、社会不安障害もよくなっていて、今まで人目を恐れて買い物に行くことがほとんどできなかったのが、自然にできるようになり、うつの症状もなくなっていました。

「うつがなくなった。こんな日がくるとは思わなかった。」 

と喜ぶレベッカさんでしたが、彼女が勇気を振り絞って、何十年も閉じ込めていた強烈な心の痛みと向き合わなかったら、彼女の精神症状の回復もありえなかったと思います。

私が仕事をやめて帰国するとき、レベッカさんは

「これ、私が大事にしていたCD。あんたにあげるよ。」

と、大好きなホイットニー・ヒューストンのCDをプレゼントしてくれました。それは、レベッカさんが若いころ、アルコール依存症に苦しんでいた時、助けになった曲が入っているCDでした。

今でも私のCDラックの中に、レベッカさんの思い出と一緒にしまってあります。

 

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