潜在意識はとても賢くて、どうしたらその人が心の健康を取り戻して、幸せになっていけるか、よく知っています。
特に意識してやっていたわけではありませんが、考えてみると、私にとって、カウンセリングとは、どうやってその人を導いたらいいか私自身が考えて決めるものではなく(そういうセッションをすると、まずうまくいくことはありません)、クライアントさんの潜在意識の部分に聞くというか、クライアントさんの潜在意識の部分はどう言っているかを感じ取り、それを引き出していくという作業だという気がします。
前回の記事に書いた、レベッカさん(仮名)が、何十年も口にできなかった母親の問題について、彼女の潜在意識を意識化させるのに役立ったツールは、「絵」でした。
レベッカさんは、母親のことがトラウマになっていて、心の傷がとて深かったので、間接的にして、安全な距離を取れるよう、
「これは、レベッカさんじゃなくて、ロレッタさんという、架空の女性の話だと思ってください。」
と、仮の人物を設定しました。
ロレッタさんは、レベッカさんと偶然にも似たような状況で母親との関係に悩んでいることにして、
「ロレッタさんとお母さんの間に、壁があります。どのくらいの厚さで、どのくらいの高さの壁か、描いてみてください。」
と、マジックを渡し、ホワイトボードに、お母さんとロレッタさん、そして、その間にある壁を自由に描いてもらいました。
レベッカさんは、とても高くて分厚い壁を、「ロレッタさん」と母親の間に描きました。
「この絵のロレッタさんは、どんな気持ちでいると思いますか。」
「壁を越えて、向こう側に行きたい気もするけど、怖くて近づけない。」
「どうやったら壁を越えられるでしょう。想像力を働かせて、どんな方法でもいいから、考えてみてください。」
「壁は乗り越えられない。」
「今は乗り越えられないんですね。では、この絵に続きがあるとしたら、どうなると思いますか。」
「ロレッタは、あきらめて、回れ右して、壁から離れていってしまう。」
レベッカさんは、交通事故の後遺症で、認知プロセスが人よりも遅く、言葉でやりとりするよりも、こうやって絵で表現するほうが効果的だったのですが、彼女自身、このやり方は気に入ったようで、特に、自分ではなく、ロレッタさんという架空の人物の話にしたことを面白がり、積極的にワークに取り組みました。
この絵を描いてから、数回、お母さんとの問題に関してセッションを重ねていううち、彼女は、だんだん、拒絶されることを恐れずに、お母さんに率直な気持ちを表現し、自由に行動できるようになってきました。
そこでまた、あるセッションで、同じように、ロレッタさんとお母さんと壁の絵を描いてもらいました。
そのとき彼女が描いたのは、ずっと低くて小さくなった壁と、壁に以前よりずっと接近しているロレッタさんの絵でした。
「この間とずいぶん変わりましたね。では、ロレッタさんはこの壁を、どうやって乗り越えられるでしょう。」
「乗り越えなくていい。このままでいい。これがちょうどいい距離だから。」
こう言ったときのレベッカさんは、ほぼ、何十年もつづいた鬱その他の症状から回復しており、彼女の心の中にあった、目にみえない母親からの支配から、自由になってたのでした。
人によって、どんなツールが合うかは違いますが、適切に使えば、絵というのは、心の中の目に見えないものを本人にわかるように指し示す、とてもパワフルなツールになると思います。