パーソナリティ障害(人格障害)は10種類ほどあり、精神疾患の中では治療が難しいとされています。
その大きな理由としては、本人に自覚がない、もしくは治したいという動機に乏しいということがあげられます。
パーソナリティ障害は、どちらかというと、本人よりも周りの人が違和感を感じて、なんとかしてほしいと思うケースの方が多いです。
人は自分が変わりたいと思わない限り変われないものなので、基本的に心理療法は、クライアント本人が治したい、変えたいと思わない限り、適用が難しいものです。加えて、周りの人がこうしてほしいと思う症状を、心理療法を使って本人の了承なく無理に変えさせようとするのは、人を操作することになり、倫理に反する場合もあります。
治療が難しいケースのわかりやすい例が、犯罪者に多い、反社会性パーソナリティ障害です。平気で法律を破ったり人をだましたりする、衝動的で攻撃的である、などの行動的な特徴が診断基準にあげられますが、本人は罪の意識に乏しいので、自分から心理療法を受けて治療したいということは、まずありません。なので、反社会性パーソナリティの人がサイコセラピーを受ける場合は、たいてい、何かやって捕まってから、弁護士とか保護観察官、裁判官の命令で連れてこられることになります。
けれども、刑を免れるためという便宜上の理由で、表面的におとなしくセラピーを受けて、改心したふりをしても、心の底から本人が変わりたいと思わないのであれば、本質的には何も変わらず、症状はそのままでしょう。
例外なのは、境界線パーソナリティ障害で、この精神疾患の症状は本人がとても苦しいので、自発的に心理療法の治療に来られる方は多いです。そして、自殺未遂や自傷行為を繰り返し、命の危険に及ぶ場合もあるので、心理療法による治療研究もよくされています。
実際、境界線パーソナリティ障害の治療法としては、DBT(Dialectical Behavioral Thearpy=弁証法的行動療法)という、効果的な療法が開発されており、私も主にグループセラピーで使っていましたが、時間と労力を惜しまなければ、境界線パーソナリティだけではなく、双極性障害やPTSDにも効果が期待できる、優れた療法だと実感しました。
それでは、境界線以外のパーソナリティ障害の人は、セラピーの施しようがないのかというと、そんなことはありません。
私がいたアメリカの職場は、基本的にどんな症状の人であっても絶対に必ず断らず受け入れる入れる、というスタンスで、かつ、アメリカは重症の精神疾患の患者でも、精神病院ではなく、コミュニティのメンタルヘルスで治療するシステムになっていたので、色々なパーソナリティ障害の人がたくさんいました。
パーソナリティ障害と診断されるクライアントさんは、ほとんどの場合、それだけではなくて、うつ、PTSD、双極性障害の、感情障害や不安障害等、複数の診断名を同時に持っています。なので、辛いとか、困っているという本人の自覚症状のある疾患をターゲットにして、セラピーを行うわけです。
これは個人的な意見ですが、パーソナリティ障害と、並行して発症している他の精神疾患とでは、おおもとになっている原因が同じ場合が少なくなく、他の精神疾患が深いところからよくなれば、パーソナリティ障害の症状も緩和することがあるように思います。
例えば、境界線パーソナリティは「認めてもらえなかった」という幼少時の不承認の体験が根底にある場合が多いといわれています。そのトラウマを癒やしていくにつれ、不安やうつの症状とともに、パーソナリティ障害の症状も収まっていくことは実際あると思います。
自己愛性パーソナリティ障害の人で、並行してうつやPTSD、双極性障害と診断されている人は珍しくなく、この疾患の特徴である膨張したエゴの裏には、自尊心の低さが隠れていると言われることがあります。その場合、虚勢を張って過剰に防衛的にならなければならないほど自尊心が傷ついた体験があるなら、それを探り当てて癒やしていくことにより、併発している鬱や不安が回復するといういこともありえます。
いずれにしても、パーソナリティ障害単独の治療は、境界線以外はまだ難しくて発展途上であることは確かでしょう。また、パーソナリティ障害の診断は、診断する側の主観に左右されることが多く、信頼性の点で議論の余地があるということも、ここに付け加えておきます。