以前、「生きる力」として、「ありのままに感じ、表現する力」の話を取り上げましたが、もう少し詳しくお話しましょう。
「自分が今、何を感じているか」に気づくことは、意外に難しいものです。
大人になると、ルールや円滑な人間関係など、自分の感情よりも優先される事柄が多くなりますので、ある程度自分を抑え、周囲に合わせなければなりません。
このようなことは、家族であれ、 友人関係であれ、仕事上のことであれ、円滑に流れていくためには、当然、必要なことです。
しかし、そのようなことばかりに意識が向いていると、本来の自分の感情に気づかず、自分も周囲と同じ感情を持っていると勘違いして過ごしてしまうことがあります。
怖いのは、それが日常化してしまい、様々なことを判断する時に、周囲、あるいは、あの人は「どう判断するであろうか」と、自分ではなく他人の考えを無意識に想像し、それに基づいて判断してしまうようになることです。
しかも、その事に本人は気付いていないことが多いのです。
ところが、他人の考えを常に的確に想像できるわけではないので、迷いが生じます。
「こう考えるであろうか?」
「それともこう考えるであろうか?」と。
決めることができずに混乱してしまう。
それが、いずれ、慢性的な不安となり、漠然とした緊張感を生み出していきます。それは、心のエネルギーを消耗してしまう状態でもあります。
判断に迷った時、
「じゃあ、あなたはどう思うの?」
「どう感じているの?」
「どうしたいの?」
そう自分に問うて欲しいです。
でも、周囲優先で人生を過ごしてくると、それが難しい。自分が何をどう感じているのかわからないのです。
自分の感情に鈍感になるというのは、こういうことです。
だからこそ、小さい時から、ありのままの感情を表現するチャンスを逃さないように育てて欲しい。
もちろん、言葉で。
幼い子どもであれば、癇癪を起こした時に周りの大人が言葉で表現してあげる。
少し大きくなったら、片言の言葉を周りの大人が正しい言葉で表現してあげる。
もっと大きくなったら、子どもが表現した言葉をそのまま繰り返してあげる。
自由に表現できるようになったら、「本当の気持ちを話してくれてありがとう。」と感謝の言葉を返してあげる。
そうやって育てて欲しい。
ありのままの感情を表現して、受け止めてもらった時の爽快感は、周囲の助言や出来事を素直に受け止める力となります。
今まで「わかってもらえない」でも、「わかって欲しい」という気持ちでいっぱいになっていた心は、受け止めてもらえた瞬間、すっと波が引くようにその気持ちは消え、無の状態となり、自分や相手や周囲の状況を冷静に見つめる余裕を生むのです。
ありのままの感情を表現することは、決してわがままではありません。
表現することで、自分の感情に気づき、周囲に自分をわかってもらえるチャンスとなり、ひいては、周囲の状況を正しく理解し、円滑なコミュニケーションをもたらすのです。
そう、それは、子どもが幸せな人生を歩むための根源的な力です。
(佐々木智恵)