盛岡心理カウンセリング・ハミングバード

ハミングバードは、心理療法カウンセリングのセラピールームです

お問合せ: 019-681-2268 (完全予約制です。ご予約の際は、留守電にご連絡先を残していただくか下記お問い合わせフォームよりメールでご連絡ください。)
☆営業時間:9時~18時  定休日:第二、第四土曜、日曜、祝日

3つの危機反応とトラウマ

3つの危機反応とトラウマ

このエントリーをはてなブックマークに追加

危険が差し迫ったとき、私たちの身体は、頭で考えるより先に、ストレス・ホルモンである、アドレナリンとコルチゾールを分泌します。この働きによって、心臓は血液をたくさん分泌するためにドキドキと早く打ち、酸素をたくさん体に取り入れようとして呼吸も早くなり、体の筋肉はぎゅっと収縮して固くなります。つまり、次の瞬間、体が素早く動いて、戦うか逃げるかして、危険から逃れるための準備を、身体が自動的にしてくれるわけで、これを「戦うか、逃げるか反応(fight or flight response)」といいます。このとき、私たちの意識は脅威を与える源に最大限に集中し、それ以外の情報はシャットダウンします。

戦うか逃げるか反応が起きている時は、理性や社会性を司る新しい脳が働かなくなり、動物的な古い脳が活性化します。なので、誰かと愛想よくしゃべったり、笑いあったりといった、社交的な関わりはできなくなります。

心身が強い脅威に脅かされ、トラウマが残ると、危険が過ぎ去った後でも、体がこの危機モードになったままの状態になります。そうなると、人は、自分の周りを取り巻くあらゆるものに危険を見つけ出そうとして、常に目を凝らします。そして、敏感すぎる火災警報装置のように、どんな無害な環境にでも、誤作動を起こして、過剰に反応します。

先ほども触れたように、この状態では、古い脳が優勢であり、社交性や共感力を司る新しい脳が不活発なので、人との交流も上手くいかなくなります。人との関わりを楽しむためには、安全や安心を感じ、心を許すことが必要なのですが、常に見えない危険にさらされている(と脳が認識している)状態では、周りの人々=敵である、という意識がどこかにあるので、心に防御壁を張り巡らせてしまうことになります。こうなると、当然、人と深いレベルでつながることができなくなり、対人関係にも支障をきたしてしまいがちになります。

ここまで、戦うか逃げるか反応について書いてきましたが、実は、危険にさらされたときの反応は、戦うか逃げるか以外に、もう1つあります。

それが、「凍りつく」という3つめの反応です。

歩いている虫を手で触ったとき、びっくりした虫がひっくり返って、死んだようになり、しばらく動かなくなるのを見たことがあるでしょうか。あの反応が「凍りつく」です。あの状態は、死んだふりをしているのではなく、本当に体が硬直して、意識を失っているのだそうで、死んだと思わせて敵をやり過ごすためだとか、余計なエネルギーを消耗しないで済むための省エネモードだとか、死の痛みを感じさせないために起こるとか、言われています。

ただし、虫や動物なら、ひとたび危険が去ると、凍りついた状態から比較的すぐに立ち直って、何事もなかったようにまた活動できるのですが、人間はなかなかそうはいきません。

この「凍りつく」という反応が起こるとき、人は絶望感に襲われ、無気力になります。

脅威を与えるものと戦ったり逃げたりして、自分でなんとか身の安全を取り戻すことができるなら、まだ、自力で状況を打破できるというので、人は通常、無力感には囚われません。そもそも、戦うか逃げるか反応は、エネルギーが活性化されるので、一時的にパワーがみなぎった状態です。絶望や無気力とは正反対の状態です。

けれども、もしどうやっても恐ろしい危険から逃れることができないと判断すると、人は戦うことも逃げることもあきらめて、何もしなくなります。この時、意識は、痛みを感じたくないあまり、外からの感覚を遮断し、外界と関わることをやめてしまいます。つまり、解離を起こすわけです。これは日常的に虐待された子供が、よく取る手段です。体は現実世界から逃げることができないので、意識だけ体から離れてしまうのです。

この状態にある人は、痛みも感じにくい代わりに、喜びや幸せを感じることもできなくなり、鬱状態に陥りやすくなります。現実を感じないよう、感覚を制限しているということは、五感を通して、「今、ここ」にあるものをフルに味わい、楽しむことができないということであり、生き生きと生きることができない、ということを意味するからです。

さて、ここまで、危険に際しての3つの反応、「戦うか、逃げるか、凍りつくか」ついて書いてきましたが、これらの反応を起こしている時、脳がどのような状態になるかを明らかにした、興味深い実験があります。

この実験は、カナダで87台を巻き込む大規模な交通事故に遭遇し、悲劇的な状況をなすすべもなく目撃したのちに助け出された、一組の夫婦に対して、同意のもとに行われました。この夫婦に、事故の光景を思い浮かべてもらい、その間の脳の状態を調べたのですが、結果として、彼らの脳波はそれぞれ、とても顕著な様相を示していることがわかりました。

今に生きることできず、生を楽しむことができない、という点においては、フラッシュバックに苦しみ、戦うか逃げるか反応にとどまってしまっている人も同じということなのです。フラッシュバックそのものが、現在から過去への解離現象だからです。 

これに対して、妻の方の脳は、全体的に不活発で、どこも動いていない、文字通り真っ白な状態。つまり、意識が体から解離して、離人症を起こしてしまっていました。妻の方は、幼いころのトラウマを、いつも解離して逃避することでやり過ごす癖があったため、古いパターンを繰り返していたのでした。

ちなみに、この夫婦は、後に適切なセラピーを受けて、お二人ともトラウマを克服されたそうです。

以上からもわかるとおり、トラウマというのは、「出来事そのもの」ではなく、「出来事によって引き起こされた身体反応がもたらした知覚」です。

トラウマの言語は、言葉ではなく、感覚です。身体に染みついた感覚をいかに削除し、「それはもう終わった。今はもう安全だ」という情報を、身体に新たに覚えさせることができれば、トラウマは克服できる、ということなのです。

トラウマについては、機会を見て、続きをまた書きたいと思います。                                          (Chika)

 

031

 

 

 

 

 

 

 

« »