盛岡心理カウンセリング・ハミングバード

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12日

父親像

先日、久しぶりに旧友とお茶をしました。

私が長年勤めた職場を辞めて、子育てのカウンセラーとして働いていることを話したら、彼女は唐突に「やっぱり、父親って可哀想だよね。」と呟きました。

彼女は、父親が癌と宣告されてから、亡くなるまでのことを振り返っていました。
父親が癌であることを聞かされた時は、ショックで何とかしてあげたいと思い、思い出をたくさん作ろうと旅行に連れて歩いたり、ドライブに連れ出したり、癌に効くサプリメントを探してはプレゼントしたり、一生懸命だったと。でも、小さい時から感じていた身勝手な父親という感覚が拭い去れなかったので、身の廻りの世話をやいたり、父親の不安を聞いてあげようという気持ちにはなれなかったと。

彼女は小さい時から母親の愚痴の聞き役であり、愚痴の半分は、父親に対するものであった。だから、父親は身勝手な人という感覚が彼女の中に住みついたのだ。父親が癌になってからも、それは変わりなかった。

父親が亡くなってからは、彼女は母親を支えるために今まで以上に重要な立場を担っていった。毎日毎日、泣きながら夫との生活を振り返り語る母親の傍に居続けた。

それは、彼女にとっては、小さい時から習慣なので全く苦痛ではなかった。むしろ、話を聞いてあげることで、母親が元気になっていくのを実感でき、彼女の安心にもつながっていた。

ただ、一つだけ、母親を恨みたくなる時があるそうだ。それは、彼女の知らない家族思いの父親像が、母親の口から語られた時だ。思い出は美化されると言うけれど、実は、いい父親で、いい夫であったエピソードが語られると、彼女は、親身に介護してあげれなかった自分を責めるのだそうだ。

彼女にとって、父親はどこか遠い存在で、二人の関係はぎこちなかったそうだ。自分の弱みを見せることもなかったし、父親も同様だった。何処となく、心の距離を感じていたという。だから、彼女の父親像は自分が目で見て感じた父親像ではなく、母親から聞いた身勝手な父親像だったのだと亡くなってから気付いた。そのことがとても悔しいと。

彼女の話をひとしきり聞いた後、私もつい「なるほど、確かに、父親って可哀想だ。」と呟いた。

でも、ありがちな話だ。
まして、彼女の祖母は格式高い家の生まれなので、嫁である母親にはかなり厳しかったらしい。彼女の母親は、辛い気持ちを外で話すこともできずに、優しい気持ちを持った彼女に話すことで支えられてきたのであろう。

それにしても、亡くなった後で、覚える後悔の念は、かなり辛いものがあるだろう。

さらに、彼女は言った。
「だからね、私は、子どもにはお父さんのいいところをいっぱい話すようにしているんだ。絶対、愚痴は言わないの。そしてね、子どもに相談された悩みのうちね、肝心要な相談事はね、直接お父さんに相談するように言うの。そうすれば、お父さんと子どもの心の距離が近くなるでしょ。結果、いざ、夫が介護が必要になった時、子どもにちゃんと看取られるだろうし、子どもも後で後悔することないでしょ。」と。

私は、ずっと感心して聞き入っていました。そして思いました。

彼女は強い。そして、優しい。後悔の念を抱きつつも、母親の辛さを理解し、その経験を自分の子育てに生かしている。素敵なお母さんだ。その素敵なお母さんを育ててくれた彼女の両親もまた素晴らしいと。

                         

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                                                                                                                            (佐々木 智恵)