盛岡心理カウンセリング・ハミングバード

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12日

トラウマの真実(1)

先日、アメリカの精神科医で、トラウマの研究・治療の第一人者である、Bessel A. Van der Kolk博士のセミナーを受けました。といっても、セント・ルイスで行われているセミナーを、日本に居ながらにして、ウェブキャストでライブで受けたのですが(おかげで徹夜だったのですが)とても興味深い内容で、勉強になりました。

なので、その内容を、ほんのさわりだけですが、いくつか取り上げ、私が臨床上、経験し、理解したことと合わせて、ここでシェアしたいと思います。

①トラウマの言語は、言葉ではなく、感覚である。

トラウマを受けた人というのは、心身が「戦うか逃げるか反応*」になったまま、抜け出せなくなった状態にある。(*戦うか逃げるか反応=危険を察知したとき、他の感覚がすべてシャットダウンし、闘って相手を倒すか、走って相手から逃げるか、いずれかの手段を取るために全神経が集中すること。この時、体は、アドレナリンを放出し、素早く動けるよう、心拍数があがる・筋肉が収縮する・呼吸が早まる等の準備をする。)

トラウマは、体に感覚として染みついているものなので、何が起きたかを言葉で語るよりも、体の感覚を変えてあげる方が、症状の軽減に役立つ。なので、例えばヨガなどの実践は効果が高い。EMDR(指の動きに合わせて、眼球を左右に動かす治療法)も、感覚をシフトさせるのに役立つため、トラウマには高い効果が期待できる。トラウマの癒しには、トラウマとなった出来事を追体験したり、その詳細を言葉にして語ったりする必要は、必ずしもない。

②トラウマを受けた人は、過去に生きている。

ひどく衝撃的な経験をして、それがトラウマになった人は、そのまま時間がとまったかのように生きてしまう。その時の感覚のままに現実を見て、周りのあらゆるものにトラウマの原因となった事象を投影する。結果として、目に見えない危険から身を守るため、常に緊迫した状態にある。「その経験はもう終わったのだ」いうことを、本人の意識にわからせることが、トラウマ治療の最終目標である。

③トラウマを受けた人は、自分の内面を見つめることを恐れる。

トラウマを受けた人は、体の感覚を遮断してしまって感じることができず、自分の内面を見つめること、気持ちを感じることを、なんとかして避けようとする。なぜなら、自分の中に潜ると、恐ろしいものを見なければならないと感じるから。呼吸も浅い人が多い。なぜなら、深い呼吸は、感覚とつながり、自分自身の感情を再び感じることを、許容してしまうから。なので、アルコールやドラッグ、その他の対象に耽溺して、感覚や気持ちを紛らわせる人が、トラウマの患者には多い。けれども、それは逆効果で、逆説的だが、トラウマの克服には、自分自身とつながり、感覚や気持ちを再び感じることが、必須である。

まだまだ、セミナーからくみ取ったことは多いのですが、今日はこの辺にしておきます。また機会があれば、まとめて書くかもしれません。

ちなみに、Van der Kolk博士のお父さんは、強制収容所に囚われていた経験があるのだそうです。はっきりとは言っていませんでしたが、ニュアンスから、多分、第二次世界大戦中のナチの収容所だと思われます。お父さんは、強制収容所から釈放されて帰宅したのち、酒に溺れて、幼い子供だった博士に暴力をふるったのだそうです。

私がアメリカで参加したトラウマのセミナーのプレゼンターは、ほぼ例外なく、自分自身が筆舌に尽くしがたいトラウマを潜り抜けて生き延びてきた人ばかりでしたが、博士もおそらくそうなのだろうと思いました。

ちなみに、この博士はDSM-Ⅳ(すべての精神病が分類され、その診断基準が詳細に記載されている、精神医療従事者のマニュアル的な本)のトラウマに関する執筆も手掛けた有名な人のようです。素晴らしい業績を残した多くの人がそうであるように、この人もまた、逆境を昇華することにより、自己実現を果たした一人なのだろうと思います。

                                                     (Chika)